著:一木けい 読書記録
一木けいさんの、「1ミリの後悔もない、なんてあるはずがない」を読んだので、感想を書いておきます。読書の秋で波に乗ったページをめくるスピードが、手がかじかむくらいの冬になっても落ちなくて、もくもくといろんな本を読んでいます。
仕事も大学院も大詰めだからなのか、小説の世界に浸って、デジタルの世界からも離れられて、心のリフレッシュになっているのかもしれません。
本のあらすじ
本作は、全5話からなる短編集です。
家庭環境が複雑で、幼少期に貧困や孤独を経験した「由井」と、その周囲の人々の視点によって物語が紡がれます。
タイトルの通り、各章に登場する人物たちは、
大人になった今でもふと胸によみがえる“あの時の誰かとの記憶”を抱えていて、
その向き合い方には、少しずつ違う形の後悔が残っています。
ひとつひとつの後悔の描写がとても繊細で、
感情のひだを丁寧に拾い上げるような文章が印象的でした。
私は社会人になってから、章ごとに視点が変わる短編形式の本が好きになりました。
通勤時間に少しずつ読み進められるし、間を空けても内容を忘れにくいので性に合っています(笑)
シンプルな感想
正直に言うと、この物語の登場人物の中に「自分と似ているな」と感じる人は、1人もいませんでした。
ありがたいことに、私は両親に自分の考えを聞いてもらえる環境で育ったので、
由井の感じていた“居場所のなさ”や“誰にも頼れない幼少期”が、なかなか想像できませんでした。
壮絶な過去を持つ由井が、大人になって穏やかな家庭を築けていることにも、
どこか現実感が追いつかなくて、不思議な気持ちになりました。
でも、その距離感があるからこそ、
この作品が私にとって“普段触れない価値観に近づける本”になった気がします。
私はこれまでの人生で、心に深く残っている後悔がありません。
「やらない後悔より、やって後悔したほうがいい」という家訓のもと、
挑戦したいことには背中を押してもらい、失敗しても
「これは自分に合わなかったんだな」と割り切れる性格です。
良くも悪くも、過ぎたことはすぐ忘れてしまうのも影響しているかもしれません(笑)
そんな私だからこそ、
“後悔を抱えながら生きる登場人物たち”の姿はとても新鮮で、
自分とは違う人生の重さを静かに感じさせられました。
少しだけ恋愛部分で感じたこと
もしただの恋愛小説なら、
由井が初めての恋人・桐原とそのまま純愛を貫いて結婚する未来もあったかもしれません。
ただ、人生ってそんなに都合よくいかない。
タイミングや環境がずれることのほうが多い。
その“ままならなさ”が逆に物語を大人にしていて、私はとても好きでした。
そして何より、
由井の夫が全力で由井と娘を大切にしようと奮闘している姿が印象的です。
文章の端々から、お互いがとても真面目で、努力家で、
似た気質を持っていることが伝わってきました。
結局のところ、
“似ている大切な部分が重なっている人と結婚すること”って、
人生においてすごく大事なのかもしれないな…と、しみじみ思いました。


コメント